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その日、ボクは遠足・・いや、修学旅行前日の小学生に戻っていた。

「紀ノ国屋に12時」

その約束の時間にだけは絶対に遅れるワケにはいかなかった。
という理由以上に、少し眠ろうにも目が冴えて、寝る事は不可能に思えたので、風呂から上がるとすぐそのまま、出かける支度をはじめていた。

約束の時間ギリギリに着くより、少し早く着いて心の準備もしておきたかったので、かなり余裕を持って家を出た。

「このままやったら・・20分くらい前には着くな。・・まず缶コーヒーでも飲んで気持ちを落ち着かせてからやな。」

何度も通ったことのある高速の出口がやけに新鮮なカンジで目の前に迫ってくる。

「いよいよや・・・。」

待ち合わせの紀ノ国屋にはやはり20分ほど前に到着した。

「これくらい早かったら、充分かな。」

まずは店内に入って見回してみる。

店員さんの他にはお客さん一人だけ。
DAIWAのロゴの入った赤い帽子をかぶっている。

・・って、あれ?

あれれ・・。

あれれれ・・・。

ひょっとして。

「荘司さん・・ですか。」

「そうです。」

とダンディな声はまさしく憧れのあの人だ。

今では超メジャーな方なので、誰でも一目でわかると思うのだが、当時は雑誌でのモノクロ写真でしかイメージがなかったものであるからはっきりと認識するのに数秒かかった。

・・どえらい早いやん・・。

まずは出鼻をくじかれた。缶コーヒーで気持ちを落ち着ける作戦もパーである。


今でこそ・・師匠の性格からしてナットクできるのだが、当時はやはり下のモンが先に着いとかんとアカンやろ。と思って早くに着いたつもりであったのに、あまりの周到さにはちょっとビックリした。

その場所で、ダンゴの練り方から教えてもらって・・。

ううう・・緊張するゥ・・。

今では当たり前の事なのだが・・砂とアミエビを先に混ぜ合わせることもその時教えてもらった。
うまく出来上がったダンゴにちょっぴり感動すら覚えた。

その場でしばらく話した後、釣り場へ向う。

この日の釣り場は日置。
ボクにとっては初めての場所で、もちろんクルマも荘司さんの後ろにくっついて走る。

出船の1時間ほど前に到着した日置は、まだ暗く、和歌山もこのアタリまでくると明け方はさすがにしんと静まり返ったこのカンジがたまらない。

壊れかけの街灯の灯りが妙に優しく思える。

荘司さんが身支度を始めるのをみて、ボクもライジャケ、ブーツと身支度を整えて、帽子も被る。

・・ん?

・・んん?

そう言えば荘司さんは・・待ち合わせ場所からクルマの中でもずっと帽子被ったまま。

・・むむむ・・。

・・これは。ひょっとして??

出鼻をくじかれて以来ずっとあちらのペースであったのを取り戻せるかもしれない。

ボクは一人ほくそえんでいた。


出船して5分ほど。直ぐ向こうの対岸が今日のポイントだ。
海というより、河口と言った方が正解だろう。

「マナイタにするんか?」

「二人やからデベソにするわ。」

船長の問いかけに即座に答える荘司さん。このやりとりで、ボクの入り込む隙は無い。

この日のために新調した竿は磯2号。
今でこそ2号でも非常に軽く扱い易い竿も多いのだが、当時の2号といえば片手で扱うのにはやや重く感じるものが多かった。

だが、その重厚さが今日のこの舞台では非常に頼もしく感じられた。


お盆も過ぎたとは言え、まだまだ季節は夏。日が昇るにつれて、後ろに生い茂った木々からは蝉の鳴き声がうるさく聞こえてくる。
シャツからは汗が滲み出すし帽子の中が蒸れて暑い。時折帽子を脱いで風を通してやる。
ついでに髪の毛も掻き揚げて、ふぅーと息をつく。

そういえば隣りの荘司さんはまだ帽子を被ったままだ。
余程の寒がりでなければ、帽子を脱いではイケナイ理由でもあるとしか思えない。

いよいよ・・くじかれた出鼻を取り戻す時がやってきそうである。

隣りを振り向かなくても、ドボンという着水音でダンゴを打ち返しているのがわかるものだが、そのペースが明らかにあちらの方が早い。

ボクもそれに負けないように懸命に打ち返すのだが、ペースを上げれば上げるほど、体から噴出す汗も多くなってくるし、帽子も蒸れる。

・・・そろそろ脱ぐかな。

ボクはワクワクしていた。

ボクにとって憧れである人のヒミツを握ることは、その人に一歩でも近づける気がしていたからだ。

憧れゆえの嫉妬かもしれない。


ふとみると・・帽子を脱いでいた。突然だった。

そこには、あるはずの無い髪の毛がふさふさしていた。

ボクの浅はかな企みを見透かしていたかのように、そこには金色の髪の毛が風になびいていたのだ。

完全にボクの負けだった。

距離が縮まる期待感との差。別に釣りは「見た目」では無いけれども、カッコ良くないよりはカッコ良い方がいいに決まっている。
もとより憧れの存在ではあったのだが、より一層その想いが強くならざるを得なかった。


その日、ボクは2枚釣ったと思う。荘司さんはもう少し多く釣っていたはずだ。

が、そんな釣果はボクにはどうでも良いものであった。

・・・あかん。この人にもっともっと近づきたい。

そんな想いだけが強く残った釣りだった。

その日、宿で一泊して次の日の朝帰るというプランであったが、その夜には色んなことを話してもらった。

・・今思えば・・なんと贅沢であったか。

一泊する事がではない。
憧れの人を独り占めで一緒に釣りをして、一晩色々と話をしてもらって・・。

10数年経った今でも・・その日のことは忘れることの出来ない思い出である。

そしてボクはその日以来、今でもずっとダンゴを投げ続けている。

いつか・・ボクがあの日の荘司さんになれる日を夢見て・・。




 完






文学風に仕上げて見ましたけど・・寒い?( ̄▽ ̄;)




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